相続対策は相続税対策だけではない(2)

相続税申告書

「遺産分割」「納税資金」「節税」をバランスよく考えてトータルの対策をすることが、本当の意味での「相続対策」といえます。
この3つのバランスを欠き、節税だけに偏ってしまい痛い目に遭うことになった失敗例を前回コラムに引き続いてご紹介します。

●失敗例② 生命保険金を長男だけが受け取れるようになっていた例

1億の預金をもっていたBさんは、銀行からの勧めにより一時払いの生命保険に加入することにしました。
銀行の提案は、「生命保険金は『500万×法定相続人の数』だけ非課税枠があり、子供が3人いるBさんの場合には現金を保険という財産に替えることで『500万×3人=1500万』の相続税上の財産の圧縮になる。
保険に加入しなければBさんの相続税上の財産は1億のまま、保険に加入すれば1500万減の8500万の評価額となり、仮に税率を20%とすれば300万(1500万×20%)の節税になると」いう内容。
長男夫婦に老後の面倒をみてもらっていたBさんは、長男夫婦へのお礼という気持ちもあり長男を受取人として保険に加入しました。
その後、実際にBさんの相続がおこったのですが、残念ながら子供たち3人が遺産相続のことで揉めることになりました。
Bさんの相続財産は、預金7500万(2500万の保険料を上記保険に支払った残額)のみ、長男が受け取る保険金については民法上では相続財産にはなりません
従って預金の7500万だけを長男・次男・長女で均等に2500万ずつ相続することになります。
Bさんか保険のことを聞かされていなかった次男・長女が相続税の申告のことを通して長男が受け取る保険金のことを知ることとなり、「なぜ兄貴だけが・・・」と揉めることになったのです。
生前にBさんから次男・長女に老後の世話のことを含めてきちんと保険のことを話していれば、揉めすに済んだ可能性もあります。
しかし結果としては300万を節税の対価として兄弟が揉めることになってしまったのです。
節税という観点、遺産分割という観点、双方持ち合わせていれば違う手が打てたはずです。

●失敗例③ 自社株の評価圧縮を図って相続対策を果たしたと思っていた例

Cさんは一代で売上50億円の会社を育てあげたオーナー社長です。70歳を過ぎたあたりから銀行やコンサルタント会社から事業承継について度々提案を受けるようになりました。
主な話題の中心はCさん自身が100%を持っている自社の株価対策。
自社の株式の評価額は20億円近くあり、このままでは相続税を10億円超も支払う必要があるというのです。
妻や子供たちのためにも対策をしなければまずいと考え、株価圧縮を専門とするコンサルタント会社に依頼し、その提案に沿って自社の株式の評価額を5億円程度に圧縮しました。
これで安心したCさんでしたが、その6年後に病気で亡くなり相続が発生しました。
Cさんの主な相続財産は、自社株5億、自宅等不動産2億、預金1億の合計8億。相続税額は約3億3千万。
相続人であるCさんの妻、長男、長女は困ってしまいました。遺産のうち預金が1億しかなく相続税を払うことができません。
自宅等の不動産を全部売却しても3億3千万には届かず、また自宅を売却すれば妻の住まいをどうするのかということも問題となり、不動産を売却すればそれだけで解決するという状況ではありません。
この例でも、「節税」という観点だけでなく「納税資金」という観点をCさんが併せもっていれば、自社株の評価減という対策にとどまらず、納税資金を確保するための対策を行えたはずです。

相続対策

前回と今回にわたり、「遺産分割」「納税資金」「節税」をバランスよく考えてトータルの対策をすることが本当の意味での「相続対策」であるというお話を失敗例も交えてしてきました。
銀行、生命保険会社、税理士等の専門家のすべての人が、この3つの観点を持ち合わせているかというとそうではなく、提案する担当者の力量に左右されます。
皆さんご自身でもこの3つの観点をしっかり持ったうえで、相続対策のプランニングをトータルにしてくれる金融機関や専門家を探されることが賢明です。

相続・事業承継に関するお問い合わせ・ご相談フォームはこちら